福岡地方裁判所 昭和27年(行)26号 判決
原告 久良木喜一
被告 福岡県
一、主 文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
一、事 実
原告は、被告が原告に対し昭和二十六年二月七日附久良木ツル宛の通知を以てなした精神病院への入院措置を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、被告は被告の部下をして原告が自己及び第三者を害する偏執狂と誤診せしめ昭和二十七年二月七日附久良木ツル宛の通知を以て原告を精神病院に入院せしむべき旨指示し、爾来原告は右指示に基き、福岡県筑紫郡太宰府町県立保養院新病棟に強制的に入院せしめられたが、其後同年三月二十八日頃被告の命により同所より一時仮退院し、同年八月九日頃再入院の命を受け、昭和二十七年一月十日より再び強制的に同病院に収容せられ今日に至つている。然し乍ら原告は大正五年国家免許の医師にして多年医療普及に専念した六十六歳の身心強健の国手であるが、現在病妻ツルの外子供なく、身寄もなく、貯蓄もなく、夫妻の生活は死の直前にあり、しかも被告は原告を故なく精神病院に監禁し人権侵害業務妨害をなす。よつて原告は右病院からの釈放を求めるため本訴に及ぶと述べ、
被告の本案前の抗弁に対し、被告の昭和二十六年二月七日附の原告に対する入院措置については之に対し、訴願による不服の申立をしていないが、同年八月九日の仮入院措置に対しては処分庁に訴顧した所、出訴期間を徒過して居る旨の通知を受けたことはある。と答えた。(立証省略)
被告指定代理人は本案前の抗弁として原告の訴はこれを却下する。との判決を求めその理由として(一)原告が本訴に於て取消の目的とする原告に対する入院措置は精神衛生法第二十九条に基き、福岡県知事のとつた行政処分であつて之に対しては同法第三十二条により処分の日から六十日以内に訴願法に基く厚生大臣宛の訴願をなし得る旨規定しているところ、原告は右処分に対し訴願による不服の申立をしていないから本訴は行政事件訴訟特例法第二条に基き不適法たるを免れない。
更に又(二)原告は福岡県を被告として本訴に及んでいるが、本件は原告に対する精神衛生法による入院措置について之を違法として之が取消を求める訴訟であるから行政事件訴訟特例法第三条に則り他に特別の定のない本件については処分をした行政庁たる福岡県知事を被告とすべきである。然らば福岡県を被告とする本訴は被告の当事者適格なきものとして却下せらるべきものである。と述べ、
本案について、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め答弁として、原告主張の請求原因事実中、福岡県知事が昭和二十六年二月七日附久良木ツル宛の通知を以て原告に対し、精神病院への入院措置を命じ其後原告に対し、仮退院の許可を一回与へたことは認めるがその余の事実は凡て否認する。被告は精神衛生法第二十九条に基き精神鑑定医両名の鑑定の結果原告を精神障害者で医療及び保護のため入院させなければ自身を傷つけ又は他人に害を及す虞があると認められたので入院措置をとつたものであり、原告主張の様な原告を監禁しその人権侵害、営業妨害をなしたものではなく、全く適法な処分である。と述べた。(立証省略)
三、理 由
よつて先づ、被告主張の本案前の(一)の抗弁に付按ずるに、被告が本訴に於てその取消の目的とする福岡県知事の原告に対する入院措置は精神衛生法第二十九条に基く福岡県知事の行政処分であることは原告の主張自体に徴し、明白なところであるから行政事件訴訟特例法第二条に則り、精神衛生法第三十二条に基く訴願の裁決を経るか、又は訴願の裁決を経ることにより著るしい損害を生ずる虞のあるとき、その他正当の事由あるときを除いては本件処分の取消を求める訴は許されないものと謂うべきところ、原告が右入院措置に対してその処分の日から六十日以内に同条により厚生大臣宛訴願しなかつたことは原告の自認に徴し明かな所であり、又訴願の裁決を経ることにより著るしい損害を生ずる虞ありとし、その他正当の事由あるにより本訴の提起せられたことは原告に於て何ら主張せず、且かかる事実を認めるに足る資料がないから結局被告の右抗弁は理由があり、本訴はこの点に於て不適法として却下を免れない。
よつて原告の本訴を不適法として却下し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 高次三吉 大江健次郎 今富滋)